クリニックのペイシェントハラスメント(カスハラ)対策~対応策6選~
以前の、セクシャルハラスメント対策のテーマに続き、本日は「クリニック向けのカスタマーハラスメント」を取り上げたいと思います。小売企業を中心に注目され続けているカスタマーハラスメントですが、最近百貨店で初めて高島屋さんがカスハラ対策を公表した事が話題になりました。
医療を提供する病院やクリニックも、同じサービス業として位置づけられていることは皆さんご存じかもしれません(平成7年版厚生白書)。対人業務が多い医療サービスは、百貨店同様、カスタマーハラスメント(ペイシェントハラスメント)対策が必要であると言っても過言ではないでしょう。
厚生労働省のカスハラ事例では、ある病院の事例が取り上げられています。この病院では、ペイシェントハラスメント(カスタマーハラスメント)の件数が多かったわけでなくとも、しっかりと対応している点、またトップの意識の高さから対応方針を公開した点をぜひ学びたいものです。
厚生労働省「あかるい職場応援団」のカスタマーハラスメント対策企業事例の事例3より
この事例は病院ですが、ペイシェントハラスメントは病院・クリニックの規模に関わらず起こりえることです。クリニックの院長先生や事務長様など、医院経営に関わる方は、ぜひ一度ご検討ください。
目次
なぜペイシェントハラスメント(カスタマーハラスメント)に取り組むのか
一般的なクレームや苦情は、診療や医療接遇に対する不平・不満を訴えるもので、それ自体がすぐに問題とは言えず、クリニックの改善や医療接遇の向上につながるものです。
しかし、不当・悪質なクレームは、通常の診療や医院運営に支障をきたしたり、従業員に過度な精神的ストレスを与え、クリニック経営にとって大きな損失となります。
したがって、クリニックでも不当・悪質なクレーム(いわゆるペイシェントハラスメント)に対して、従業員を守る対応が求められています。
では、具体的に何をすれば良いのか、を6選ご紹介します。
ペイシェントハラスメント対策として、何をすればよいか?
ここからは、具体的にペイシェントハラスメントの対策として、日ごろからどのようなことをクリニックで行えば良いか見ていきましょう。
1. 基本方針の院内共有
前述の通り、ペイシェントハラスメント対策は経営者・リーダーが自ら率先して従業員を守るために行うものです。まずは、方針を打ち出しましょう。繰り返しになりますが、現在カスハラの件数が少ないから、対策をしなくても良いということにはなりません。経営者自らが対策していることで、従業員・スタッフが安心して働ける職場環境にもつながります。
- 院長自ら、自院として重大な問題であることや、ペイシェントハラスメント(カスタマーハラスメント)を放置せずしっかりスタッフを守る姿勢であることなどを方針として打ち出す
- 院内でのペイシェントハラスメント(カスタマーハラスメント)について現状把握をしっかりしておく。懸念がないか、改善や対策ができるポイントがないか、院内で話し合っておく。
2. 患者さんに対する周知
次に、患者さんやそのご家族に対して、貴クリニックの方針をお知らせしておくことがペイシェントハラスメント予防にもなります。
- 院内において厚生労働省のリーフレットやポスターを掲示するなどして、来院者にカスタマーハラスメントを容認しないことを発信していく
- 防犯カメラの設置
3. 相談対応体制を整備
スタッフが実際にハラスメントを受けた時にスムーズに判断・相談できるために、スタッフ向けの相談対応体制を整備することも重要です。
- ペイシェントハラスメント(カスタマーハラスメント)を受けたスタッフが、誰に相談すれば良いか、相談の流れなどを決めて院内に周知
- 明らかなものだけではなく、判断が付きにくいものや、ペイシェントハラスメント(カスタマーハラスメント)の予兆と考えられるものについても、対応担当者を決めるなど、対策を考えておく
4. 対応方法や手順の策定 ~ケース別~
実際の対応については、③だけでは十分ではなく、何がカスハラなのか?どのような場合にどう対応するか?を「具体的に」院内で共有しておくと、実際のアクションがスムーズになるでしょう。下記は、具体的なケース別に、どう対応するか、の事例です。貴院に合わせて策定しておきましょう。
◆初期対応
- 謝罪については、医療機関側の非を認めるようは発言を避け、「不快な思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした。」と不満を感じさせたことのみを謝罪します。
- また、相手の主張をしっかり聞いて書きとっておきましょう。聞く耳を持つことで少し相手が落ち着くことも考えられますし、相手の主張や言い分、その背景を聞き取ることでその後の対応が検討しやすくなります。
◆時間を拘束する
- ペイハラの例:患者さんや家族が長電話をかけてくる、毎日のようにかけてくる
- ペイハラの例:診療時間外・予約時間外に来院する
- 対応:応じられないコトをはっきりと伝える。対応できない理由を伝える。あらかじめ対応できる時間を伝えて長時間対応をしない。
◆理不尽な要望を繰り返す
- ペイハラの例:対応できない内容について、何度も要求する
- ペイハラの例:待ち時間や受付への過度なクレーム、支払いの拒否
- ペイハラの例:診断書を自分の思うように書いて欲しいと要求する
- 対応:要求をやめるように毅然とした態度で伝える。内容をリスト化して記録する。状況に応じて弁護士や警察へ相談する。
◆暴言や怒鳴る
- ペイハラの例:大声を上げる、屈辱的な発言や名誉棄損・人格否定の発言をする
- 対応:後で事実確認ができるよう録音しておく。状況に応じて弁護士や警察へ相談する。
◆暴力をふるう、脅迫する、院内の設備や備品を乱暴に扱う
- ペイハラの例:殴る、ける、モノを投げる、わざとぶつかってくるなど
- 対応:スタッフ自身が自らの身の安全を守りつつ、ただちに警察へ通報する。
◆SNSやネット口コミ上での誹謗中傷
- 対応:書き込まれた内容を、弁護士から媒体側へ訴えて削除してもらえる可能性などを探りましょう。
◆医療事故に関して納得してもらえない
- ペイハラの例:医療機関は、患者に対して診療・治療の顛末を報告する義務がありますが、しっかり医師が説明しても過剰に説明を求めてくるケース
- 対応:医療事故については、慎重に対応する必要があるため、弁護士等に相談することも早めにご検討ください。当事務所でも、弁護士の先生のご紹介が可能です。
5. 院内対応ルールについてスタッフへの研修を行う
- 研修を定期的に実施する
- 院長からの方針を伝える
- どのようなクレームを受けるとペイシェントハラスメントなのか判断例などを共有
- 具体的なパターン別の対応方法を周知する
- 患者さんへの接し方の注意点(話の聞き方、事実のみに謝罪するなど)
- 記録の作成方法
など
◆普段からの対策
院内でのマニュアルの作成、読み合わせを行っておく
6. ハラスメント防止規程
ハラスメント防止規程にしっかりとペイシェントハラスメント(カスタマーハラスメント)を定義しておくことも有効です。
当事務所では、就業規則や社内規程の作成をサポートしており、ハラスメント防止規程の作成も可能です。
以上、6選いかがでしたか?あわせて厚生労働省のカスタマーハラスメント対策(企業マニュアル)もよろしければご確認ください。
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