2022-01-17

会社を守る労働問題対応:後編「こんな時どうする?労務問題を予防する対応」

 

こんな時どうする?労務問題を予防する対応

 

2020年始めから広がった新型コロナウィルス感染症拡大で経営状況が悪化した中小企業もあるかもしれません。NHKが行った中小企業を対象とする調査・分析によると、68%の企業がコロナウィルス感染拡大前と比べて、売り上げが減ったと答えています。

そして、「経営への影響を受けてこれまで行った対応」を見ると、およそ40%が「従業員を一時的に休ませた」と回答しています。
また「賃金カット」、「従業員を休ませている」、「人員削減」なども挙げられています。
経営上はやむを得ない対応ですが、これらの対応を正しく行わないと、労務トラブルに発展してしまいます。
(参考:データで見る 新型コロナ 中小企業への影響|NHK

 

このような対応が必要になったとき、中小企業・クリニックの経営者の方は何に気を付ければよいでしょうか。
それぞれのケースの注意すべきポイントを見ていきましょう。

 

ケース① 従業員を一時的に休ませるとき

会社都合で従業員を休ませる場合には、平均賃金の60%以上の額の休業手当を支払うことが労働基準法で義務付けられています。経営状況の悪化などでやむを得ない場合であっても、休業手当を支払う必要があります。これは正規従業員だけでなく、パートタイマーなどの非正規従業員も対象となりますので、しっかりおさえておきましょう。

知らずに、手当を支給しないまま休ませてしまうと、後にトラブルの原因になりかねません。

 

なお、コロナウィルス感染症拡大の影響により、事業活動の縮小を余儀なくされ従業員の休業を実施する雇用主のためへの助成金(雇用調整助成金)がありますので、助成金を活用し適切に対応しましょう。(参考:雇用調整助成金(新型コロナ特例)|厚生労働省

※2022年1月時点で、雇用調整助成金の特例措置は3月31日までです。

 

ケース② シフトを急遽変更するとき

シフト勤務のケースになりますが、事業の状況が芳しくないなど会社の都合でシフトを変え、そのために従業員が働く機会を失ったケースです。このケースも、会社都合で従業員を休ませることと同じ扱いとなり、働けなくなった分の平均賃金の60%を保証する必要があります。
シフトを急遽組み替えることはありがちかもしれませんが、事前に本人と相談して他の日に振り替えるなどの努力をしましょう。

 

ケース③ 賃金カットをするとき

賃金の変更(等、労働条件の変更)は、労働者の合意なしに使用者が一方的に切り下げられることはできません。十分な説明と情報提供をし、理解を促すことが必要となります。しかし、賃金は従業員にとっても生活に関わってくることなので、簡単に合意を得られるものではありません。合意がなければ賃金カットは困難なのが一般的です。

業績が悪く人件費の削減を考えるのであれば、残業を抑制するなど別の策を検討するのも1つです。賃金が払えない状況などやむを得ない場合は、早期退職を募集するなども策かもしれません。

もしも、従業員の職場のルールを守らない、や非違行為があった場合は、「懲戒処分」として減給することは可能です。その場合、あらかじめ就業規定において懲戒の種別及び事由を定めておく必要があります。(また減給できる額の限度も労働基準法で決められています)

 

ケース④ 解雇(人員削減)をするとき

状況によっては、やむを得ず従業員を解雇にしなければならない場合もあります。しかし、雇用主は、合理的な解雇であったとしても、少なくとも解雇日の30日前の予告をすることが労働基準法で定められていますもしも、即時解雇を行う場合は30日分の解雇予告手当を支払う必要があります。

(※ただし、労働基準監督署の認定(解雇予告手当除外認定)を受ける場合は即時解雇が可能となります)

もし、経営状況の悪化など、人員削減を余儀なくされた場合は、「解雇」ではなく、「退職推奨」という形で、従業員への説明・合意を得て進めるのが良いでしょう。

 

「解雇」については、稀に起こってしまうケースとして、経営者や上司が、ついカッとなってしまい「クビだ!明日から会社に来るな!」と従業員に言ってしまうことがあります。言った当人が解雇をする意図がなくとっさに出た一言だったとしても、この言葉はNGです。この一言が「即時解雇」と判断され、解雇予告手当、そして退職金を請求されてしまう結果となってしまいます。
このような意図しない結果を生まないように十分気を付けましょう。(経営者の方だけではなく、「人事権限を有する者」とみなされる職場の上司も同様ですので職場内で徹底をしておきましょう)

いずれのケースについても、従業員への不利益が生じるため労働問題に発展しやすいものです。
大きなトラブルに発展しないためには、雇用主からの
丁寧な説明と従業員への誠実な対応が必要となります。
日ごろからのコミュニケーションも踏まえて、従業員への心配りを意識することが労働問題を回避する重要なポイントです。


労働問題が起こったら?会社への3大リスク


もしも、労働問題・労務トラブルが起こったら、会社にどのような影響を与えるのでしょうか。

一言で申し上げると、労働問題が発生して、会社・事業所へ良いことは1つもありません。そればかりか、労働問題が起こったときに会社側が受けるリスクは大変大きなものです。

会社側に問題行動があった場合は当然なことですが、仮に問題がなかったとしても会社・事業所がリスクを背負ってしまいます。

会社が受ける3大リスク
  • 多大な時間と労力を要する
    問題を解決するには、多大な時間と労力を要します。
    解決するには、状況を互いに理解し、しっかり話合うことが不可欠です。そのための時間と労力を費やすことが必要となります。もし、トラブルが当事者同士で解決しない場合は、第三者に入ってもらって解決する必要があります。(①「あっせん委員」という仲介の委員が関与する「あっせん」、それで解決しない場合は②「訴訟・労働裁判」へと発展します)

    第三者が介入した場合、内容説明などより多くの時間を費やすことが必要となります。仮に「訴訟・労働裁判」へと発展した場合は、平日に裁判所に出頭することも出てきます。時間と労力への負担は「人的なコスト」とも言えるでしょう。

  • 多大な経済的コストがかかる
    問題が起こってしまった場合、会社には経済的コスト・ロスはかかってしまいます。
    仮に、法的に会社側に非がなかったとしても、円満解決や長引かせないことを望むのであれば多少の金銭的な解決が必要になることもあるでしょう。(過剰に従業員からの請求に反発して長引かせると、時間・労力への負担だけでなく、トラブルが大きく発展するリスクも大きくなります)

    「訴訟・労働裁判」に発展した場合、時間と労力がかかるのと同時に、解決金が大きくなっていくことも考えられます。トラブルの内容によっては、会社側に莫大なコストがのしかかってくることもあります。


  • 社会的信頼が失われる
    一昔前であれば、このリスクは大企業だけの問題でした。
    しかし、今はSNS等で簡単に情報が発信される時代です。労務トラブルが起こってしまうと、会社のマイナス情報が一気に広まってしまいます。SNSの怖いのは、あること・ないこと、誹謗中傷などへと発展してしまうことです。

    このようなことから、契約先やクライアント・お客様を失ってしまうこともあります。また、一緒に働くほかの従業員にも影響が出てくることもあります。


中小企業やクリニックなどの小規模な事業所にとっては、これらの損失は大変大きなものです。このようなことにならないためにも、対策をしっかりし労働問題を起こさないようにすることが経営者の方にとって大変重要となります。


労働問題を起こさないようにするための4つのポイント

 

会社・事業所にとっても大きなリスクとなりうる労働・労務問題。可能であれば、トラブルや争いは避けて通りたいところですよね。

一方で、今は決して経済状況が良いと言える状況ではないですので、生活の収入源となる仕事・職場に対しての不平・不満、批判などは起こりやすい傾向であるのは事実です。

 

そんな中、経営者の方はどのような対策をすればよいのでしょうか。
以下に、中小企業・クリニックの経営者の方におさえていただきたい
「労働問題対策の4つのポイント」をまとめました。

 

  1. 就業規則や労使協定を作成・締結する
    就業規則や労使協定は、労働時間・賃金などの労働条件や職場でのルール(服務規律)を定めて文章化したものです。
    労働・労務問題が起こる原因の1つとして、労働条件や職場のルールが明確でないことによる会社と従業員との間の不調和があげられます。職場の労働条件・労働のルールを明確にし、従業員と合意をしておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。


    最近は、インターネットなどでも就業規則のサンプルが手軽に手に入ります。
    また、業界の団体がサンプルを提供していたりと、就業規則の作成が初めての方でも簡単に作成することができるようになりました。これらのサンプル・フォーマットを活用いただくのはよいのですが、そのまま利用することは大変危険です。内容を自社の環境に合ったものにする、労務トラブルに対応された内容にする、などの工夫されたものにすることが必要です。

    労働問題のリスクを想定した上で、就業規則を作成することは、労務トラブルを防ぐための重要なポイントです。改めて自社の就業規則が最新の労務の法律などに適応されているものか、様々な働き方を想定したものか、など見直しされることをおすすめします。

    就業規則は常時10人以上の労働者を使用する事業場では必ず作成することが労働基準法で定められています(参考:労働基準法 第9章 就業規則)10人未満の事業所に対しては義務付けられていませんが、労務リスク対策として就業規則の作成・締結をしましょう。

    就業規則の作成については、「就業規則・諸規定の作成・見直し」のコラムに詳細がありますので、こちらも参考にしてください。

  2. 労働基準法やその他労務に関する法令遵守した職場環境を整える(労務コンプライアンス)
    労務問題を起こさないために最も重要なことは「ちゃんと労務に関する法律に従っているか?」です。先ずは、雇用主である経営者の方がしっかりと最新の法律を理解し、それに準拠した職場を作ることが絶対となります。

    最近では、ハラスメントに関する法改正、同一労働同一賃金を含む働き方改革関連法、など、法改正も多く行われており、経営者にとって労務リスクが増加していると言えます。
    また、インターネットやSNSの普及により、個人が多くの情報が得られるようになっています。もしも、適切な対応をしていないと、従業員から指摘される可能性もあります。
    よりよい会社にするためにも、労働問題を予防するためにも、改めて「法令に従った労務環境であるか」を確認することをおすすめいたします。

    ●労務コンプライアンスについては、「労務環境チェック」のコラムでご紹介していますので、ご参考にしてください。

  3. 社員の勤怠管理をしっかりとする
    法外の残業をさせてしまわないためや賃金の未払いを発生させないためにはもちろんですが、従業員の勤怠をしっかりと管理、状況を把握しておくことは大変重要です。

    例えば、繁忙期でもないのに従業員の残業が増えている時。きっとそこには何か理由があるはずです。経営者の方が気づいていなかった、業務の増加や非効率かもしれません。従業員の体調不良や精神的な不調が原因かもしれません。もしくは、単純に「やる気が出ない」などの理由かもしれません。もしもその理由が「やる気が出ない」であれば、「やる気の出ない理由」があるはずです。先輩・同僚からのプレッシャーなどかもしれませんし、仕事以外の悩み事かも知れません。

    勤怠管理をしっかり行うことは、従業員、そして職場の健康状況(労働衛生)を知るためのツールとなります。何かサイン(予兆)を見つけた場合は、従業員とコミュニケーションをとり、状況を聞いてみるなどすることで労働問題を未然に防ぐことは可能です。

    ●勤怠管理について詳しくは、「労働時間管理(近日公開)」のコラムのページもご参照ください。

  4. 従業員とのコミュニケーションをしっかりとる
    労使間のトラブルの原因の多くは、会社側と従業員とのコミュニケーションが十分でないところから始まります。「解雇」「休暇」「勤務時間」「賃金」などで発生するトラブルはどれも事前に事業主が従業員への説明や聞き取りなど、誠実・丁寧なコミュニケーションがされていなかったことが原因で起こってしまいます。

    従業員にとっては、仕事は生計・生活に関わる重要な事柄です。
    どんなに些細な事でも、従業員の労働条件や労働環境に関わることは、丁寧に説明・コミュニケーションをとっておくことは重要です。
    重要な労働条件の変更の際だけに限らず、従業員との日々のコミュニケーションを大切にすることは、労務トラブルを発生させない為には極めて重要なことです。

    また、職場での何かあれば従業員が相談できるような環境を整えることも、職場の労働衛生対策として有効です。(※労働衛生とは、労働者の健康維持という観点から見た労働環境、および労働者の健康維持を確保するために労働環境の改善を推進する取り組みを指します)

    従業員とのコミュニケーションをとることは、労働問題の対策としてだけではなく、職場の環境を良くする、業務効率を上げる、など様々な効果も期待できます。

 

 

まとめ

 

従業員を雇用する事業所にとっては、従業員との間のトラブル・労働問題は避けたいものです。そんな経営者の方の思いとは裏腹に、労働問題は年々増える一方です。
そして、働き方の多様化、働く人々の多様性が進む中で、「これまで」の対応や職場環境のままでは、労働トラブルはこのまま増え続けてしまいます。

「うちは少人数だし、仲良くやっているから大丈夫」
「起こるか分からないトラブルのために時間を割いている暇はない…」、と思われる経営者の方もいらっしゃるかもしれません。しかし、起こってからの代償は会社にとって大きなロスとなってしまいます。

まずは、事業所が現在の最新の法令に準拠した環境であるか?「労務環境チェック」をしてみてはいかがでしょうか。そして、改めて職場で起こりうる労務リスクについて考えてみてください。

 

「労働問題への対策」は、「従業員が働きやすい環境を整備すること」「従業員とのコミュニケーションを円滑にする」ことへもつながります。
「健康な職場づくり」を目指す経営者の方にとっては、起こりうるリスクを知り、リスクを減らす環境を整えることはとても重要であると考えます。また、健康な職場は、会社の経営にとっても良い影響となってくれることと思います。

当事務所では、労働・労務問題への対策以外にも、雇用に関するご相談や社会保険のご相談もリーズナブルな価格でお受けしております。
お客様の目線になり親身になること、そして経営者と従業員のみなさまがともに成長できることをモットーにアドバイスさせていただいております。

 

 

 

 

 

 

*** 社労士業務・サービス***

 

 

 

 

関連記事

お気軽にお問い合せください

特典として簡単労務環境診断付き