「就業規則・諸規定の作成・見直し」で会社のルールを整備する
目次
- 1 就業規則や社内規定は不要と思いがちな理由5選
- 2 実は、就業規則は10名未満の中小企業でも作成しています
- 3 中小企業やクリニックも、作成したほうが良いの?
- 4 就業規則とは
- 5 就業規則の変更・見直し
- 6 就業規則を定める3つのメリット
- 7 メリット1.会社の秩序をまもる
- 8 メリット2.会社の利益を守る
- 9 メリット3.トラブルやリスクの予防や、発生時の対応に役立つ(最重要!)
- 10 就業規則がないと起こりやすいトラブルやリスク
- 11 就業規則のトレンド
- 12 テンプレートや雛形を使うときの注意点
- 13 就業規則の絶対的記載事項とは
- 14 最新の法令や改正に対応しているか
- 15 当事務所で就業規則・諸規定を担当する際のステップ
- 16 おわりに
就業規則や社内規定は不要と思いがちな理由5選
中小企業様、クリニック様、ベンチャー様、就業規則や社内規定がないという事業所もいらっしゃるのではないでしょうか?
今回は、それらの就業規則や諸規定は必要かどうか?一緒に考えてみたいと思います。当事務所でよく聞く、就業規則はいらないというご意見の経営者様のご意見をまとめてみると、だいたいこのような5点になるかと思います。
- 就業規則はないが、雇用人数が10人未満から、問題ない。
- 従業員との関係は良好なのでわざわざ就業規則は作らない。
- 就業規則を作成しても従業員は読まないので無くても良い
- 最新の労働に関する法律を調べないといけないので、手間。
- トラブルが起きても従業員は社長に従うので、無くても問題ない。
実は、就業規則は10名未満の中小企業でも作成しています
就業規則についてこのような実態調査結果があります。
従業員6人以上・・・ほぼ100%が就業規則整備済み
従業員5名以下・・・約4割が就業規則整備済み
これは、2018年に東京中小企業家同友会の会員調査です。実態として、雇用する従業員が10名未満でも、6名以上ならほぼ全社が整備済みという結果が出ています。雇用が5名以下になると作成率は減りますが、それでも4割ほどが就業規則を整備していると回答しています。
当事務所では、中小企業に加えて、クリニックの労務・人事業務をお手伝いさせていただいています。病院のような医療機関ではなく、クリニック・動物病院などの小規模の医療施設等ですと、看護師さんや医療従事者の方、受付の方を合わせても雇用は10名以下というところが多いです。
そういった場合にも、当事務所では、就業規則を作成することをおススメしています。
中小企業やクリニックも、作成したほうが良いの?
確かに、雇用数10名を切る事業所・クリニックでは、法律面からは、就業規則を作成する義務はありません。
とはいえ、
「従業員が10名未満=トラブルが起こらない」という方程式が成り立たないことは、経営者の方であればお分かりいただけると思います。
人が集まれば、つまり従業員が何人かいれば何らかのトラブルが発生することは充分に考えられます。経営者の方も従業員を雇う以上は、大きな責任も伴います。
トラブル回避、問題が起こった後の対処、裁判を起こされないように、10名未満の事業所であっても、就業規則を作成することをおすすめします。
就業規則とは
改めまして、就業規則とは、何でしょうか?就業規則というと、ちょっとお堅いイメージですが、実は大切なものです。だからこそ、法律でも義務づけられているのです。
就業規則とは、働く従業員の給与や労働時間といった労働条件、またスタッフに守って欲しい職場のルールなどをまとめた規則のことです。
常に、10名以上の従業員を雇用している場合は、法律で、
・就業規則の作成
・労働基準監督署への届出
が義務付けられています。
参考: 労働基準法(抜粋)
第89条 作成および届出の義務
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
1 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項(以下略)
第90条 作成の手続
使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
2 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。(以下略)
ここでいう、常時10人以上とは、どのような従業員でしょうか?
- 正社員
- 契約社員
- パート
- アルバイト
などを含めて、すべてのスタッフがカウントの対象になります。
一方で、カウントに含まれないのは下記の契約のスタッフです。
- 業務委託契約を結んでいるスタッフ
- 派遣契約を結んでいるスタッフ
- 繁忙期だけ雇用する臨時スタッフ
また90条でいう「事業場」とは、どんな単位でしょうか。事業場が1か所のみの中小企業は、その場所を指しますが、事業を行っている場所が複数ある場合は、それぞれ1か所を指します。
例えば、本社と、別に1店舗あれば、2事業場とカウントします。1か所で10人以上雇用していれば、それぞれの事業所で作成届出の義務があります。
届出は、当該事業所を管轄する労働基準監督署へ届けます。作成した就業規則を届出るタイミングは、「常時10人以上」の労働者を雇用することになった時点で、スムーズに行う必要があります。
もし、作成義務のある企業が就業規則を作成しない場合、30万円以下の罰金が科せられます。
就業規則の変更・見直し
就業規則は、時代や労働環境の変化に合わせて、変更していく必要があります。
例えば、副業・兼業を認めるという変更をする場合、対応が必要になってきます。これまで副業・兼業を禁止していた、ということであれば、就業規則の見直しを行い、副業・兼業を「届け出制」または「許可制」にして、認めるようにします。
また労働法令が改正されたときにも、自社起因でなくても変更が必要です。最低賃金などは、法律よりも就業規則が下回っている場合は無効ですので、自社の最低賃金の規定を改訂しておきましょう。また昨今の高齢化にともない、例えば介護に関する法律が改正された場合にも、法律と同等水準になるよう自社の規定を変更するようにします。
就業規則を新規作成したタイミングだけでなく、内容を変更したときも同じように届け出る必要があります。
労働基準監督署長へ就業規則変更届を提出することになりますが、その前に、従業員の過半数の代表者の意見をヒアリングし、書面として提出することが義務付けられています。労働組合がない場合、従業員の過半数が支持する人が代表者となります。就業規則変更届と労働者の過半数の代表者の意見書を労働基準監督署へ提出します。
また、変更したことについて、従業員への周知も忘れないようにしましょう。
就業規則を定める3つのメリット
前置きが長くなりました。さて、ここから、冒頭でご紹介したような、「常時10人未満だから、就業規則は要らない」「従業員との関係は良好なので不要」と言ったお考えについてみていきます。
従業員10人未満の中小企業や医院・クリックのような医療機関の経営者の方にぜひお読みいただきたいと思います。
経営者が就業規則を定めるメリットは、3つあります。これを見ていくと、10名未満だからと言って就業規則がいらないというわけではないことが分かります。
メリット1.会社の秩序をまもる
規則を定めておくと、会社の秩序を守りやすいということはイメージつくと思います。
メリット2.会社の利益を守る
会社の利益を守るとは、どのようなことでしょうか?
例えば、昨今活発化している転職や独立のケースで考えてみると、「顧客を奪われる」「社内の機密情報を転職先へ持っていかれる」「ノウハウを学んで、退職後に同業店舗を展開される」など万が一のことを考えれば何が起こるか分かりません。こういったときに、就業規則に、「機密情報の社外持ち出し制限」「退職1年間は同業種の開業禁止」などを定めておけば、その行動をあらかじめ抑止することで会社を守ることができます。
また、賃金の取り決めから、育児休業、介護休暇、傷病休暇まで、多様な事項に関して、あらかじめ定めておくと、会社として対応しやすくなります。
多様な人材を活用するための様々な働き方を定めておくと、昨今のダイバーシティ経営をスムーズに実践することができますね。
メリット3.トラブルやリスクの予防や、発生時の対応に役立つ(最重要!)
従業員との間で、リスク予防や、トラブルが起きた時の対応にも役立ちます。
あらかじめ、転勤や解雇について定めておくと、「転勤を拒否する従業員」「ルール違反した従業員」とのトラブルに対応しやすくなりますね。トラブル対処についても、「就業規則に定めているから」と説明することで、問題のある従業員との解決もスムーズにいくことがあります。
この3つ目は非常に重要ですので、次の項目で詳しく事例を含めてみていきましょう。
就業規則がないと起こりやすいトラブルやリスク
上記の、メリット3つ目に述べたように、就業規則があると、トラブルの対応がしやすくなったり、従業員と揉めるリスクを予防することに役立ちます。
では、「就業規則がないと起こりやすいトラブルやリスク」とはどのようなものでしょうか?具体的に見ていきましょう。
例えば、会社の施設内で勝手に昼休みに募金活動や宗教の勧誘活動をしている社員がいる、社員同士で金銭の貸し借りをしている、SNSで会社での出来事を記事に上げている、会社に黙って、終業後他の仕事をしている、などといったことを防ぐ、またはやめさせたい場合の根拠になります。
それらの規定がなく、経営者が「非常識だからやめろ」「やめない場合はクビだ」となれば、社員との思わぬトラブルに発展しかねません。経営者が常識だと思っていることが、若い社員だけではなく中高齢の社員にも通じない、ということが最近よく聞かれます。就業規則に規定し、社員に周知しておくことで未然にトラブルを防ぐことができます。
・「うちの会社の有給休暇はどうなっているんだろう」
・「手当が払われている人がいるのに、なぜ自分はないんだろう」
・「残業代がついていないが、どうしてだろう」
・「病気になったら、うちの会社ではすぐに辞めさせられるのかな」
など、働く側は、日々、いろいろなことを感じながら働いています。
そして、解決されない疑問や他の社員との不公平感は会社への信頼を失わせ、些細なきっかけで会社への不満が爆発し労使間のトラブルに発展するかもしれません。
就業規則できちんと規定することにより、社員が自分の労働条件に納得し、会社の制度などを知ることで安心して働くことができるようになります。
10人未満の中小企業の経営者でも、就業規則を作ることにより、「自らがどんな会社を作りたいかはっきりしていくので、ありがたい」というケースもありますよ。
中小企業でありがちなリスクで、法律違反に関わるものはありますか?ぜひリスク予防をしたいです。
当事務所の経験でも、このようなケースがありました。
- ケース①:就業規則の作成、改訂を行わず、経営者の思い込みや感覚で労務管理を行っている会社が時々見られます。
- ケース②:ワンマンな社長や、2代目3代目の経営者が昭和の時代の労務管理をそのまま引き継いでいる場合もあります。
- ケース③:就業規則がなくても労働法にきちんと対応していれば問題はありませんが、「うちは給与水準が高いから、有給休暇はないよ」と胸を張って仰る社長が以前いらっしゃいました。
- ケース④:また、今の時代でも「妊娠した職員はやめてもらう」と退職に追い込む経営者もいます。
労働法を知らなかった、では済まされません。法改正に対応した就業規則があれば、このようなトラブルをなくすことができます。
経営者としての思い込みと、法律は違いますよね。
経営者がしたくても、法律的に、懲戒処分や解雇ができないケースについて、もう少し具体的に教えてください。
減給や降格、または社員を解雇する場合、就業規則にその根拠がないと処分が無効になったり裁判になったときに会社側が負けたりする場合が多くあります。
守ってもらいたいことを守らない社員がいても懲戒を行いたくても行えず、問題社員をずるずると雇わざるを得ないことにもなりかねません。
また、そのような事態になれば、他の優秀な社員にも悪影響を与え、職場の雰囲気が悪くなり、労働生産性が落ちるという悪循環に陥ってしまう可能性もあります。職場の秩序を守るためにも、社員の会社秩序維持義務に違反するような行為に対して懲戒を行いたい場合は、就業規則にきちんと規定しなければなりません。
このような事を防ぐために、10人未満の雇用の中小企業やクリニックでも 就業規則を定めておくことを当事務所では推奨しております。
就業規則のトレンド
さて、話は変わりますが、最近の労働環境を見渡すと、ポストコロナ時代では、前述したように副業・兼業を認める企業が増えてきました。それに加えて、在宅ワーク・リモートワークも増えてきましたよね。
従業員にテレワーク・在宅ワークをさせる場合には、就業規則に、「テレワーク勤務を命じることに関する規定」や「在宅勤務用の労働時間を設ける場合、その労働時間に関する規定」また「通信費などの負担に関する規定」などを定めて、従業員へ周知しておくことが必要となります。
テレワークが急激に広まった昨今、厚生労働省がテレワークに際して就業規則の作成の手引きを作成しましたので、ご興味ある方は、下記をご参照ください。
テンプレートや雛形を使うときの注意点
小規模の企業では、就業規則や作成するとき、インターネット上の雛形やテンプレートを使うことはよくあるかと思います。こういったテンプレートや雛形を使うことは問題ありませんが、下記の3点には注意しましょう。
- 就業規則には、「絶対的記載事項」「相対的記載事項」があるため、ひな形やテンプレートで十分にカバーされているか注意する
- 最新の法令や改正に対応しているか
- ひな形・テンプレートが会社の実情にマッチしているのか
特に3番目は重要で、会社の実態や環境にマッチしないのに、テンプレートを使用すると、失敗の原因になりかねません。
就業規則の絶対的記載事項とは
下記の事項は、記載が必須とされており、また従業員に周知する必要もあります。
- 労働の始業・終業時刻
- 休憩時刻
- 休日
- 休暇(年次有給休暇・生理休暇・産前産後休暇・冠婚葬祭の特別休暇など)
- シフト勤務制の場合、交代に関する期日・時刻・交代の順番
- 賃金に関する決定・計算・支払いの方法
- 賃金の締め切り・支払日・支払いのタイミング
- 昇給に関する事項
- 退職や解雇に関する事項
これに対して、「相対的必要記載事項」という、必須ではないが定めをする場合には必ず記載しなければならない項目として、食費や作業着の負担、退職手当や臨時手当、出張費や出向・休職に関する規定などがあります。自社の特性や実態に照らし合わせて、必要な規定を盛り込む必要があります。
最新の法令や改正に対応しているか
就業規則の作成時、テンプレートや雛形を使用しても良いですが、最新法令に基づいているかを確認しておく必要があります。前述したとおり、法令のほうが各社の就業規則より優先されますので、最新法令に合わせて改訂しておく必要もあります。
少し前でしたら、有給休暇5日取得の義務付けや時間外労働の上限規制の導入などがありました。また働き方改革関連の法改正が続きましたので、今後も注意が必要です。
年々、従業員の労働環境に対する意識も高まっており、就業規則を含めて、働きやすい環境を確認するツールとしても、規定を整備し従業員に周知しておくことは、従業員の安心にもつながります。
当事務所で就業規則・諸規定を担当する際のステップ
当事務所では、主に中小企業様やクリニック様のサポートをさせていただいております。
現状の、既定の整備状況や、個々の組織における特性や労働環境、シフトの有無などをまずはヒアリングさせていただきます。お問合せいただき当事務所にお任せいただける場合、ステップとしては、このようになります。
- 現状のヒアリング、労働に関するヒアリング
↓ - 就業規則や社内規定を当事務所から具体的にご提案
↓ - 貴社の実態やご希望に沿って、修正案のご提出
↓ - 労働基準監督署へ届け出などの手続きを代行
おわりに
中小企業家同友会では、「一人でも雇用したら作成しよう」というメッセージとともに、就業規則のつくり方を案内しています。こちらの書物は「就業規則を労働基準監督署に提出する義務が無い」とされている10人未満の会社で活用されることを目的にしているそうです。
ここまで見てきたように、就業規則・社内規定のメリットは大きいものです。
会社も従業員も守ってくれます。雇用人数が10人未満だとしても、まだ作成されていないようでしたら、ぜひご検討をおススメします。
*** 社労士業務・サービス***
- まずは「労務環境チェック」
- 従業員を雇ったらおさえておきたい人事・労務業務
「雇用前」前編 「雇用後」後編 - 会社設立・雇用したら「労働保険・社会保険の手続き」
- 雇用契約の時などに「人事・労務各種書類の作成・提供」
- 会社のルールを整備するなら「就業規則・諸規定の作成・見直し」
- 残業時間が気になったら「労働時間管理」
- 給与を見直すなら「給与計算」
- 使える助成金を知りたいときは「助成金の提案・申請」
- 従業員の能力を高めたいなら「社員研修」
- できていますか?職場の「メンタルヘルス対策」
- 会社を守る「労働問題対応」前編
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