残業時間が気になったら「労働時間管理」
目次
労働時間にまつわる経営者のお悩み15選
当事務所で、労働時間管理に関していただくご相談で多いものを挙げてみます。
開業時で雇用に慣れていない場合と、労働管理運用に課題がある場合、に分けて挙げていますのでご覧ください。
- 開業時の雇用で配慮するべき労働時間管理とは?
- 労働時間管理を、労働基準法に則ってできているかチェックして欲しい
- 適切な労働時間の設定や契約をどうしたら良いか教えて欲しい
- 労働契約書を交わすうえでの労働時間や条件についてどう説明したら良いか分からない
- 残業をして欲しいが、書面上はどうしたら良いか迷っている
- 労働時間に準備や掃除・片づけを含めていいの?
- 休憩時間や休日の設定の仕方とは?
- シフトワークにどう対応したらよいの?
- 労働時間管理について、管理職をどう扱うか知りたい
- 変形労働時間制に移行したいのだができるのか?
- 各役割ごとに異なる労働時間制度を導入したいが管理が大変ではないか?
- 中小企業でのフレックスタイムや働き方改革はどう導入したらよいの?
- テレワークでの労働時間管理はどうしたら?
- 短時間勤務のスタッフにどう対応したらよいの?
- 中小企業で長時間労働が課題だがどう改善したら良いか
労働時間とは?
「労働時間」と「就業時間(就労時間)」の違いは何でしょうか?
経営者として違いを知っておく必要がありますか?
言葉の違いというよりも、休憩時間の含め方や、業務指示下にある時間を経営者として意識することは大切かと思います。
「労働時間」とは
「使用者の指揮命令下に置かれている時間のこと(平成12年3月9日最高裁第一小法廷判決)」です。わかりやすく言えば、雇用主である経営者のもとで会社のために働く時間のことで、休憩時間は含めません。
厚生労働省のガイドラインでは、事業所内での「着替え、待機時間」も労働時間として位置づけられています。着用を義務付けられた所定の服装への着替えは仕事のための準備ですね。
また待機時間も、指示があった場合はすぐに動けるよう労働から離れられない時間ですから、これも労働時間に入ります。
そのほか、自発的ではなく業務命令として行い参加が義務付けられている体操、朝礼、掃除も労働時間に含まれます。
労働時間は、休憩時間を含めません。言い換えれば、例えば昼休みは労働時間ではありません。
小規模な事業所様で起こりがちな事として、人手が足りないためお昼休みに、会社の電話が鳴ったら従業員に対応させているというケースです。
実際問題として仕方がない場合が多いのですが、それが常態化し昼食もゆっくり食べられないということになれば、労働基準法違反になる可能性もあります。
電話が鳴った時のために待機して欲しい場合は、休憩を別に設定する必要があるのです。
より詳しく「事例・ケースで見る労働時間」で事例を紹介していますので、ご参考ください。
「就業時間(就労時間)」とは
仕事開始から終了までの休憩を含めた時間です。
8時間働き、その間の休憩が1時間であれば、就業時間は9時間です。
労働時間管理の目的とは?
目的①法律に則った経営を行う
中小企業の経営者にとってきちんと労働時間管理をすることは、法的に会社の義務であることは言うまでもありません。
そして法律に準拠した経営・運営は、従業員にとって働きやすい会社をつくるために、そして従業員との信頼関係をつくるうえで、非常に重要です。逆に言えば、きちんとした管理をしていなかったり、残業代未払いがある場合は、後から従業員に訴えられるケースや、信頼関係が破綻するケースもあります。
目的②従業員とのコミュニケーション
経営者としては、勤怠管理をシステム上でするだけではなく、従業員の労働時間や健康状態を把握し、「残業が多いようだけど体調大丈夫?」「気になることがあれば相談してほしい」などと声をかけられるといいですね。
目的③働き方改革と生産性を考える
また、昨今は、労働時間管理の制度についていろいろな選択肢があります。
フレックスタイム制や裁量労働時間制、勤務間インターバル制度など、聞いたことがあるのではないでしょうか?
経営者にとって、「労働管理に課題があるな」「もっと働きやすい労働時間管理方法はないか?」など労働時間と生産性について考えることも大切です。
労働時間とパフォーマンスの関係
労働時間の法律的なお話に入る前に、労働時間とパフォーマンスの関係を考えてみたいと思います。
長時間労働の是正に取り組んでいる企業はどのくらいあるのでしょうか?
経団連が行った「2019 年労働時間等実態調査(2019年4月2日~5月17日)」では、「長時間労働の是正と生産性向上にむけた取組み」を行っているかどうか、そして成果が上がっているかどうか聞いたところ、下記のグラフになりました。
また行っている内容としては、多い順にこちらのようになりました。
多い項目として「勤怠状況のチェック」「トップ自らメッセージを発信する」「労働時間削減」は中小企業でもスタートアップでも大切な項目です。
そしてテレワークやフレックスタイム、裁量労働時間制などの制度の導入も中小企業でも可能です。上記のような取り組みの中で、パフォーマンス向上もセットで行う必要がありますし、また会社の仕事内容やシフトにマッチした制度を導入することで、生産性を上げることが必要です。
労働基準法における労働時間について
さて、まずは基本を押さえるために、労働時間の法的なところを確認していきましょう。
- 労働基準法では、労働時間は原則1日8時間、週40時間が上限、また休日は1週間のうち少なくとも1日、または4週間で4日以上と定められています。
(特例事業場、変形労働時間制採用の場合は例外あり)
- この上限を超えるためには、労使で時間外及び休日労働を行うための協定を結ばなくてはなりません(36協定と言います)。
協定なしで上限を超えて働かせることはできません。
- 協定を結んでも、何時間でも残業をさせていいわけではありません。働き方改革による法改正で、2020年4月よりすべての事業所において残業の上限時間も法律で規定されました。
実は、それまでは、残業の上限は法律では規定されず、大臣告知ということで基準が設けられていたにすぎません。特別条項さえ付ければ残業時間は青天井と言われていたのです。法改正により基準が法律になったことで、残業時間にも上限が定められました。 上限を超えた協定は結ぶことはできません。
- もちろん、時間外労働になった時間については、割増賃金を支払わなくてはなりせん。
- 労働時間の上限について図にまとめましたのご確認ください。
法改正後の労働時間の上限
- また、休憩時間については労働基準法により次のように定められています。
労働時間
休憩時間
6時間以内
与えなくても良い
6時間超~8時間以内
少なくとも45分
8時間を超える場合
少なくとも1時間
労働時間、休憩時間の基本は確実におさえてください。
労働時間についての罰則
図にも記載したように、残業時間の上限を超えた場合の罰則は
・6ヶ月以下の懲役
・又は30万円以下の罰金 です。
この罰則をどうとらえるかは経営者様次第ですが、労働基準法に違反することで起こる問題は、法的な罰金・罰則よりも、従業員からの信頼、そして取引先や顧客からの信頼を失ってしまうというほうが大きいかもしれません。
また、是正されない場合は、社名を公表され社会的信用を失ったり、従業員の大量退職にもつながり会社の存続も危ぶまれることにもつながりかねません。
大切なのは会社の実態に合った労務時間管理制度
中小企業の経営者様で、どのような労働時間制をとるのが良いか、悩む方は少なくありません。選択肢が多いことも原因かと思います。
・フレックスタイム制
・変形労働時間制(1年単位)
・変形労働時間制(1か月単位)
・裁量労働時間制
・他
など色々あります。
当事務所では、業種や業務形態、従業員の特性、シフト形態、などにあわせて、制度を選ぶことが大切と考えております。大切な人材に気持ちよく長く働いてもらうため、安易な導入はできませんよね。
ここに上げた制度を、次に簡単にご紹介しておきましょう。
フレックスタイム制
フレックスタイム制も良く聞かれるようになりましたので、押さえておきましょう。
会社が従業員の就業時間を決めていた時代もありましたが、労働者自らが就業時間を決める働き方ですよね。従業員として、働く時間帯を自由に設定できるので、子育てなどの調整をしやすいというメリットがあります。
経営者にとってのフレックスタイムの特徴は、導入することにより法定労働時間を越えて働かせることができる点です。あらかじめ決めた清算期間内の総労働時間を超えなければ、1日に8時間を超えても、週に40時間を超えても、働いてもらうことができるのです。この場合でも経営者側として残業手当を支払う必要はありません。働き方改革により、それまで1か月以内だった清算期間が、3か月以内に延長されています。
詳しくは、厚生労働省による「フレックスタイム制 のわかりやすい解説 & 導入の手引き」をご覧いただけます。
変形労働時間制とは?
いろいろある制度の中で、1か月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制は様々な事業所で採用されています。
「変形労働時間制」とは、1日の業務量、または季節ごとの業務量に波がある場合、1日8時間、1週間に40時間と固定するのではなく、柔軟に調整するための制度です。
自社の業務スタイルや閑散期・繁忙期にあわせて、月単位/年単位のいずれかで労働時間を設定できます。働き方改革の流れでも使いやすい制度になっています。
採用するためには、就業規則の規定や協定の作成・届出などが必要になりますので必ず専門家にご相談ください。
詳しくは、厚生労働省による「1年単位の変形労働時間制導入の手引」をご覧いただけます。
裁量労働時間制
裁量労働制も簡単に押さえておきましょう。
業務によっては、業務の進め方や時間配分を本人に任せたほうが良い、という場合に導入するのが裁量労働時間制です。
特定の業務について実働労働時間ではなく、みなした時間を労働時間として、その中に法定労働時間を超える時間があれば、その分会社が割増賃金を支払います。裁量労働制は、会社の指示ではなく、自分の裁量で仕事を行う業種などで採用されます。
専門業務型と企画業務型があり、対象の職種や業務が決められています。
また採用する際には労働者保護の観点から要件が多くあるため、こちらも専門家にご相談ください。
労働時間管理における管理職の扱い
制度だけではなく、管理職の労働時間に関しても触れておきましょう。
労働基準法における管理監督者とは、会社の中で相応の地位と権限、報酬を与えられ、経営者と一体的な立場であると評価される従業員のことを言います。
管理監督者である労働者については、労働時間、休日に関する規定が適用されず、残業代などを支払わなくてもよいと定められています。
ここで気を付けなければならないのは、管理監督者=管理職ではないということです。店長だからといっても必ずしも、労働基準法上の管理監督者ではありません。管理監督者にふさわしい地位・権限・報酬がなければ、管理監督者としては認められず、残業代は支払わなくてはなりません。
裁判では管理監督者と認められるハードルは高く、会社が未払い残業代の支払いを命じられるケースが多く見られます。管理職であっても管理監督者でないことが多くあるので、管理職の労働時間管理は健康上の問題からも会社としてはしっかり行って下さい。
なお、管理監督者であっても有給休暇の付与と深夜残業手当は支払う必要はあります。
テレワークと労働時間管理
もう一つ、最近普及しつつあるテレワークにいても触れておきます。
新型コロナウイルス感染症の拡大を契機にテレワークが急速に広まったことで、労働時間管理の在り方や社内コミュニケーションの不足への対応など、様々な検討課題が浮き彫りになりました。
厚労省の「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」報告書では、労務管理方法や労働時間管理等の課題と対応方針を提示しています。
この中で、「労働者と経営者、双方に負担感のない方法での労働時間管理」や「テレワークで生じる費用についてルールを定める」ことへの必要性が示されています。
経営者としては、就業規則に定めるなどによりテレワークが可能になります。
労働時間管理のどの部分をプロに任せるべきか?
中小企業の経営者は、ただでさえ、悩みが多いものです。
- シフトを作成や、勤怠管理システムを使っているが中小企業にとってはメイン業務ではないためめんどうに感じる。
- 人間関係も複雑で日々悩むこともある中で、生産性を効率化も実施したい、ただし人事管理システムを入れるほどではない。
- 労働時間管理の中で、労働時間短縮、残業対応、残業短縮もしたい。
こんな状況が発生しますよね。
この状況で、シフト作成や勤怠管理のためのアプリやシステムは、近年増えてきました。日々の入力は労働者が行い、経営者がチェックする、そんな流れが多くなっています。
そんな風に効率化しつつも、
・フレックスタイム制
・変形労働時間制
・テレワーク
など多様な働き方について考えるのは至難の業です。
自社にあった多様な働き方まで考えるところまでは専門家に任せても良いのかもしれません。
よくある事例・ケースで見る労働時間
「着替え、掃除、体操、朝礼」などは労働時間に含まれることを先にお伝えしました。その他も具体的にみていきます。
- 仮眠時間
仮眠時間は仕事をせずに寝ているわけですが、一定の事態が発生した場合これに対応することが義務づけられているため、雇用主の指揮命令下から完全に開放されたとは言えず、休憩時間ではなく労働時間と評価されます(大星ビル管理事件最高裁判例)
- これまで会社の慣習として始業時間前に体操と掃除をさせてきた
心と体を整えるために、従業員の安全のために、などと様々な口実を付けても、これを労働時間外と考える事は経営者としてNGです。実施することが悪いわけではもちろんありませんが、始業時間後に実施するか、または早朝残業の割増賃金を支払う必要があります。
- 研修は本人のためなので労働時間外で出席してもらっている
従業員が任意で参加するものであれば良いですが、参加必須であれば業務でありこれは労働時間に含まれます。
まとめ
経営者にとって、労働時間管理は、法的義務を果たす以上に、従業員が働きやすい環境を作ることにつながります。
シフトを作る、勤怠管理システムを管理する、だけではなく、全体を見渡し、自社業務にベストな働きやすい制度を整えていくことも経営者の役目です。
まずは、きちんとした労働時間管理を行い、法を守れていない箇所があれば是正しましょう。正しい運営をしている場合は、生産性を向上でき自社業務にマッチした労働時間制度の運用がないか、検討しても良いでしょう。
*** 社労士業務・サービス***
- まずは「労務環境チェック」
- 従業員を雇ったらおさえておきたい人事・労務業務
「雇用前」前編 「雇用後」後編 - 会社設立・雇用したら「労働保険・社会保険の手続き」
- 雇用契約の時などに「人事・労務各種書類の作成・提供」
- 会社のルールを整備するなら「就業規則・諸規定の作成・見直し」
- 残業時間が気になったら「労働時間管理」
- 給与を見直すなら「給与計算」
- 使える助成金を知りたいときは「助成金の提案・申請」
- 従業員の能力を高めたいなら「社員研修」
- できていますか?職場の「メンタルヘルス対策」
- 会社を守る「労働問題対応」前編
会社を守る「労働問題対応」後編