できていますか?職場の「メンタルヘルス対策」
目次
メンタルヘルスとは?高まる職場でのメンタルヘルス対策
「メンタルヘルス」とは、「心の健康状態」を意味します。
個々の人々が持つ精神的や心理的な心の状態です。強い不安、悩み、ストレスなどを感じる状態は、メンタルヘルスの不調へと導きます。「ストレス社会」といわれる現代、私たちは日々様々なストレスや悩みの原因となるものに囲まれています。仕事もその一つではないでしょうか。
厚生労働省の「令和2年 労働安全衛生調査(実態調査)≫」によると、「仕事や就業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じることがある」と回答した労働者は半数を超えています。
そして、「過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1カ月以上休業、または退職した労働者がいた」と答えた事業所は9.2%を占めています。わずか1割弱と思われるかもしれませんが、多くの人が職場で強いストレスを感じ、そしてその不調が原因で仕事を休まざるを得ない・辞めざるを得なくなる人がいるのということは放っておけない事実ではないでしょうか。
このような背景から、職場でのメンタルヘルス対策の必要性が高まってきています。
従業員のメンタルヘルス不調の原因
メンタルヘルスの不調が現れる原因はどのようなものがあるのでしょうか。
厚生労働省の調査によると、「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じる」内容としてあがっている上位3つは、
- 仕事の質・量(59.4%)
- 仕事の失敗、責任の発生等(34.0%)
- 対人関係(セクハラ・パワハラを含む)(31.3%)
となっています。
(出典:令和2年版過労死等防止対策白書「2. 職場におけるメンタルヘルス対策の状況」|厚生労働省)
これら3つの原因を見ると、全て職場内の環境で改善が可能ということも分かるのではないでしょうか。
経営者の方が、職場での「メンタルヘルス対策」を考えた時に特に意識したい要素といえるのではないでしょうか。
メンタルヘルス不調がもたらす職場への影響
職場の従業員にメンタルヘルスの不調が現れた場合、会社や事業所にはどのような影響があるのでしょうか。
以下にみていきましょう。
- 業務パフォーマンスの低下や労働力の損失
不安やストレスなどメンタルヘルスの不調は、業務パフォーマンスに大きく影響します。ミスが増えたり、遅刻や残業が増えたりすることもあります。
もし悪化してしまった場合は、仕事を休まざるを得ない状況になることもあります。そうなってしまった場合、職場にとっては大きな労働力の損失にもなってしまいます。
- 他の従業員への影響
従業員の一人がメンタルヘルス不調となり業務に支障が出る場合、職場の他の従業員へ助けをお願いしなければならないこともあるでしょう。
他の従業員へ負担が増えてしまうこともそうですが、それ以上に、メンタルヘルス不調が原因で休業や退職となった場合、他の従業員の不安にもつながりかねません。
- 労働問題への発展の可能性
もしも、従業員のメンタルヘルスの悪化が原因で重大な病や自殺などに至ってしまった場合、労働問題へ発展する可能性があります。
労働問題に発展すると、会社の経営にも大きなダメージを与えかねません。
このように、従業員のメンタルヘルスの不調が会社・職場に大きな影響を与えかねません。
しかし裏を返せば、従業員のメンタルヘルスが良い状況であれば、会社・職場にとって良い効果を与えてくれるとも言えます。仕事は誰もがストレスを感じやすい場所だからこそ、従業員のメンタルヘルスのための職場での対策を準備することが必要かもしれません。
国が推進する職場でのメンタルヘルス対策とは?
職場・仕事での強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者が半数以上を超え、そして精神的・心理的な苦痛によっての退職や死亡するケースも起こる中、政府は労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止するための政策を実施しています。そして、それぞれの事業場でのメンタルヘルス対策(メンタルヘルスケア)の実施を推進しています。
では、国が推進している職場でのメンタルヘルスケアとはどのようなものか以下にみていきましょう。
4つのメンタルヘルスケア
厚生労働省は、「労働者の心の健康保持増進のための指針≫」(=メンタルヘルスケア指針)にて、職場におけるメンタルヘルスケアとして、以下の「4つのメンタルヘルスケア」を推奨しています。
- セルフケア
従業員個人によるケア。
個々の従業員が自身の心の状態や健康状態を理解し、心身の不調に気づくよう体制を整える。
- ラインによるケア
職場の上司によるケア。
上司が一緒に働く従業員の体調不良などがないか日常の状況を把握に努める。
- 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
産業医や安全衛生担当によるケア。
セルフケアやラインケアが効果的に実施されるようサポートを行う。(職場内のメンタルヘルスケア実施にあたっての取り組みの企画や方針作りなど)
- 事業場外資源によるケア
医療機関・専門家によるケア。
職場でのメンタルヘルスケアに関して、必要に応じて事業場外の理療機関などを活用、サポートを受ける。
メンタルヘルスケアの具体的進め方
「4つのメンタルヘルスケア」を基礎に、職場での「メンタルヘルスケアの具体的進め方」として、以下の4つの取り組みをあげています。
- メンタルヘルスケアの教育研修・情報提供
労働者、管理監督者、事業場内産業保健スタッフなどに対し、職務に応じた教育研修・情報提供を実施します。必要に応じて事業場外資源が実施する研修などへの参加についても配慮をおこないます。
- 職場環境などの把握と改善
管理監督者や事業場内産業保健スタッフなどに対し、職場環境の把握と改善の活動を実施しやすい環境を整備するなどの支援をおこないます。
- メンタルヘルス不調への気づきと対応
労働者のメンタルヘルスの不調を早期発見し対応するため、相談がしやすい環境づくりやストレスのセルフチェック実施※などをおこないます。また、個人情報に注意しつつ労働者・管理監督者・家族などからの相談に対して適切に対応できる体制を整備します。
- 職場復帰における支援
メンタルヘルス不調により休職した労働者が円滑に職場に復帰、就業を継続できるようにするため、復職時の支援を適切におこないます。
なお、これらの職場でのメンタルヘルスケアの取り組みに関わって、2015年12月1日に施行された改正労働安全衛生法で、年1回のストレスチェック制度の義務化が盛り込まれました。
この対象は、労働者数50人以上の(定期継続のパートタイマーやアルバイトを含む)の事業主となっており、50人未満の場合は、努力義務となっています。
他にも、50人以上の事業場については「衛生委員会の設置」や「産業医の選任」も義務付けられています。
このように、メンタルヘルス対策は、国の重要な課題であり、職場での対策が必須とされています。
今後、労働者の抱えるストレスやメンタルヘルス不調が改善されないとなると、職場での対策に関しても強化が進むでしょう。50人未満の中小企業などにも義務化される事項も出てくることもあると考えられます。
必要⁉ 中小企業・クリニックでのメンタルヘルス対策
現在の労働安全衛生法でみると、50人未満の事業場についてはストレスチェックの実施など「努力義務」となっています。また、職場に求めているメンタルヘルスケアについては「指針」として公表されているのが現状です。
では、50人未満の中小企業やクリニックなどの小規模の事業所についてメンタルヘルス対策の必要性はあるのでしょうか。
特に必須とされていることでなければ、労力と時間を割いてまで対策を実施する必要はないと思われる方もいらっしゃるでしょう。
経営者の方にご注意いただきたいのは、メンタルヘルスチェックの実施や衛生委員会の設置、産業医の選任など具体的な対策の義務化はされていないものの、使用者は労働者に対する「安全配慮義務」が労働契約法で義務化されています。
この「安全配慮義務」には、メンタルヘルス対策も使用者の義務と解釈されていますので、50人未満の事業所であっても従業員のメンタルヘルスケアに努めることは必要となります。
メンタルヘルス不調が職場に与える影響は非常に大きいのが現実です。
従業員のメンタルヘルスの不調によって会社・事業所の損失にもつながります。
そして、従業員のメンタルヘルスが良好であれば逆に会社・事業所にとって以下のような良い効果(メリット)を出してくれると言えます。
- ミスが減る、生産性が向上する
- 従業員のモチベーションの向上
- 職場の雰囲気を良好にする
- 休職・離職などのリスクを減らす
- 労働問題のリスクを減らす
など
このような、職場に与える影響を考えると、中小企業やクリニックのような小規模な事業所であっても、従業員のメンタルヘルス対策は重要だと言えます。
では、中小企業やクリニックのような小規模の事業所ではどのようなメンタルヘルス対策をすべきなのでしょうか。
大企業が実施しているような産業医を配置するなど外部専門家にサポートを依頼するなどの対応は、費用対効果から見ても困難かもしれません。
中・小規模の事業所が推進すべきメンタルヘルス対策は第一に「予防をする」ことです。
従業員にメンタルヘルスの不調が出ないよう、日常に行えるメンタルヘルス対策をご紹介します。
中小企業・クリニックでできるメンタルヘルス対策4つ
- 日々のコミュニケーションをとる
日々のコミュニケーションは、職場環境を良くします。また業務効率を上げる効果もあります。
職場でのコミュニケーションと言うと、業務に関しての報告・連絡ばかりになりがちです。メンタルヘルスケアとして効果的なコミュニケーションには「話しやすい環境を作る」ことが重要です。
そのためには、経営者の方や上司の方が積極的に従業員に話しかけてみると良いでしょう。そして、コミュニケーションをとる際に意識していただきたいのは「相手(従業員)が話すこと」です。一方的に話すだけになってしまわないように注意しましょう。
- 従業員の状況に気を配る(変化に気づく)
日々のコミュニケーションが取れれば、「今日は調子が悪そう」などの気づきがあるかもしれません。
また、中小企業やクリニックなどの小規模事業所であれば、経営者・上司の方が、日々それぞれの従業員・スタッフの仕事の様子も見ていることでしょう。仕事の様子を見る際に、従業員個人にも目を向け、様子や状況も見てみましょう。
例えば、これまでは「最近仕事の効率が悪いな…」「やる気ないんじゃないか?」とみていたものを、「もしかしたら、何か大変なことがあるのかな?」「悩み事やストレスがあるのかも?」といった風な目線に変えることも重要です。
従業員の変化に気づき、コミュニケーションをとることはとても重要です。もし仮に勘違いであったとしても、「従業員に対しての気遣い」は、従業員の安心を生みますし、職場の健康度を上げるためにも効果的です。
- 従業員の話を聞く(傾聴する)
従業員の変化・不調に気づいた場合は、従業員に声をかけてみましょう。抱えている悩みやストレスがないかを聴いてみましょう。この時のポイントは、従業員が話したがらない場合は無理に聞き出そうとしないこと、そして従業員の悩みに対して、ジャッジしないこと、です。良かれと思い「君は…だから、~すればいい」などとアドバイスをするのは控えましょう。重要なことは、傾聴する(耳を傾ける)ということです。
悩みを聞いてもらうだけで、気持ちが楽になる・ストレスが軽減することもあります。何か従業員へ伝えるべきことがあるとすれば、「もし職場で何かできることがあれば教えてほしい」という気持ちです。
- ストレスチェックを実施する
日々、従業員の状況を配っていたとしても、それぞれの心の悩みやストレスを察知するには限界があります。個人のストレスや悩みはなかなか見えづらいものです。また、本人から悩みを人に相談するというのは、なかなか難しいのが現実です。
ストレスチェックは、そのような隠れた従業員の悩み・ストレスを見つけ出すのに有効なツールです。年一回の健康診断で体の状況をチェックするのと同様に、年に一度のストレスチェックで、心の健康のチェックをし、従業員の心身の健康を確認しましょう。
現在の法律では、50人未満の規模の企業には、ストレスチェックの実施は義務付けられていませんが、将来的にはすべての事業所に対してストレスチェックの実施が義務付けられるかもしれません。
ストレスチェックやメンタルヘルスについては厚生労働省が運営する「こころの耳」で見ることができます。「5分でできる職場のストレスセルフチェック」もできますので、ご覧ください。
上記に挙げた以外にも、「ゆっくり休息をとる」ことは、従業員それぞれができるセルフケアです。そのためにも、しっかりと休みをとれる環境(休憩・休日の確保、残業が増えすぎない、等)を整えることも重要です。
これらの対策をきっちりと行うことで、従業員のメンタルヘルスの悪化を事前に防ぐことは可能です。
もしも、従業員のメンタルヘルスの不調を察知した場合には、適切な専門家や専門医に相談・診断してもらうとよいでしょう。
メンタルヘルス不調の従業員の休業対応
もし従業員のメンタルヘルスの不調が見つかった場合、適切な専門家・専門医に診てもらうことが望ましいです。
その上で、事業所はその従業員を休ませる必要があるかどうかの判断、そして対応が必要です。
従業員のメンタルヘルス不調での休職を進めるにあたっての事業主が行うべき対応を以下にみていきましょう。
- 休職の判断
「安全配慮義務」の観点からも、事業所はメンタルヘルス不調になった従業員が仕事を休む必要があるかの判断する必要があります。
休職にあたっては、就業規則≫の休職の規定に沿って、医師による診断書の提出、休職期間、休職期間中の賃金等の確認が必要になります。
仕事による精神障害であると判断された場合、労災補償制度により一定の補償を受けることができます。(労災認定の要件などは、こちらをご参照ください>>精神障害の労災認定 | 厚生労働省≫)
また、休職中の従業員との連絡方法を休職前に決めておきましょう。余計な不安やストレスを与えないためにも、連絡する頻度の確認もしておくことをおすすめします。
- 休職中の対応
定期的(事前に確認しているタイミング)に連絡し、従業員の回復状況を確認、把握しましょう。
連絡を定期的に取ることで、従業員が休職中に孤独感や疎外感を感じることを回避・緩和することもできます。また、回復状況の確認にあわせて、無理のない範囲で復帰の意思も確認しましょう。
- 復職可否の判断
休職中の従業員から復職の希望があった場合は、主治医からの診断結果をもとに職場復帰の可否を判断しましょう。医師からの診断書は、いつから勤務可能か、勤務時間の長さ、業務内容は通常のものと同様でよいか、等、復職可能かを会社が判断できる程度に具体的に記載されたものが良いでしょう。
- 職場復帰
心身の不調が回復し、主治医が「復職可能」と診断しても、すぐに以前のようにフルに業務をこなすことは難しいでしょう。主治医の診断と従業員の状況に応じて、本人の希望も聞きながら、短時間勤務や業務負担を調整する、担当業務を変更するなども検討しましょう。先ずは負担がかからないようゆっくり慣れていってもらうことが大切です。
職場復帰支援については、厚生労働省が公開している「メンタルヘルス対策(心の健康確保対策)に関する施策の概要」もご参考ください。
もし、事業所が従業員の不調を放置し、従業員のメンタルヘルスを悪化させてしまうと、「安全配慮義務違反」となり、メンタルヘルス不調の従業員に対して損害賠償責任を負うことにもなりかねません。
そうならないためにも、従業員のメンタルヘルス不調を察知した場合は、適切に対応するよう心がけましょう。
まとめ
メンタルヘルスの不調は、不安や心配事、ストレスなどで起こる心の不調です。
誰もが抱えてしまうものである一方、ケガなどとは違い目で見えるものでないため、なかなかその不調は気づきにくいものです。
従業員・スタッフのメンタルヘルスの不調が悪化すると、日々の業務に支障を与えるだけでなく、会社の経営にも影響しかねません。そのような事が起こらないためにも、従業員とのコミュニケーションを取り変化に気づくこと、従業員を気遣うこと、などの日々の心がけで対策することは可能です。
従業員の心の健康は、職場の健康です。
そして、健康な職場は会社・事業所に数々の良い影響をもたらしてくれます。
中小企業・クリニックのような小規模な職場であるからこそ、従業員の心のケア、心身の健康を保つことは経営にとっても重要な要素になるでしょう。
当事務所でも、中小企業やクリニック・動物病院に向けた「メンタルヘルス対策」に関するご相談を承っております。
「ストレスチェックリスト」の作成や、従業員の安全・心身の健康が守られている職場であるかを診断する労務環境チェックの実施、など、職場のメンタルヘルスに関する様々な対策をご提案しています。
それぞれの事業所・クリニックの規模やサービスに合ったメンタルヘルス対策を経営者様と一緒に考え、アドバイスさせていただいております。
メンタルヘルス対策以外にも、雇用に関するご相談や社会保険のご相談もリーズナブルな価格でお受けしております。
お客様の目線になり親身になること、そして経営者と従業員のみなさまがともに成長できることをモットーにアドバイスさせていただいております。
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